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梅毒 その特効薬は

梅毒の症状、そして検査と進んできましたが今回は、いよいよその治療法ということになります。

梅毒の治療は、基本的にペニシリンの内服によって行われます。
ペニシリン系の抗生物質は、誕生してからかなりの年月が経ち耐性菌も数多く、性感染症をはじめ疾病の治療にはあまり用いられなくなっていますが、梅毒トレポネーマには、絶大な力を持っているので第一選択薬として選ばれます。

 

ただ、ペニシリン系の抗生物質はアレルギーも多いので、この場合は、ミノマイシンやアセチルスピラマイシンを投与します。
ペニシリンがどのくらい強力な力を持っているかというと、服用して1日目か2日目に、38℃以上の発熱、頭痛、筋肉痛などの症状がでることがあります。

これは、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応といって、梅毒トレポネーマがペニシリンによって大量に死滅・破壊されて、細菌内部の毒素が血液に混入するために起きると考えられています。
一過性のものなので、鎮痛解熱剤の投与によって症状を抑えることもあります。

これは、ペニシリン系の抗生物質に特有のもので、セフェム系、ミノマイシンなど他の抗生物質では起きません。
また、クラミジアの治療に使われるクラビット、オゼックスなどのニューキノロン系抗菌薬やジスロマックは梅毒トレポネーマには効力がありません。

それでは、どのくらいの薬を服用するのでしょうか?

第一期、性器に初期硬結や硬性下疳ができた時期は4週間

第二期、掌や足、全身に発疹ができたり、扁平コンジローマができた時期は8週間

 

これ以降や感染の時期が不明なときは、12週間とされていますが、実際には、検査の値を見ながら決めていきます。
RPR法が8倍以下になると、治癒ということになります。
TPHA法(あるいはFTA-ABS法)は、必ずしも値が低下するということはなく一定の値に留まってしまうことがあります。

治療が終わっても、年に2,3回定期的に検査をしていくことも大切です。


梅毒の検査は、組み合わせ。

梅毒に感染しているかどうか、この症状が梅毒性のものかどうかは基本的に血液検査で判定します。

梅毒の血液検査は、RPR法とTPHA法あるいはFTA-ABS法があり、これらの2つの検査を組み合わせてそれぞれの検査結果が陽性か陰性かの組み合わせで感染しているのかどうか、治癒しているのかどうかを判定していきます。

検査法についての詳細はここでは省きます。

RPR法とTPHA法(またはFTA-ABS法)のいずれもが陰性の場合これは梅毒には感染していません。
また、いずれもが陽性であればこれは感染していることになります。

それでは、どちらか一方だけが陽性の場合はどうでしょうか?

まずRPR法だけが陽性の場合。
これは生物学的偽陽性といって、梅毒には感染していないのですがリウマチや膠原病などの疾患や妊娠などでみられることがあります。

それでは逆にTPHA法(またははFTA-ABS法)だけが陽性の場合はどうでしょう。
これは梅毒には感染していましたが、治療して治っているということです。

TPHA法(またははFTA-ABS法)は、治療を行って治ったからといってすぐには陰性にはならない場合が多いのです。
第二期以降、トレポネーマが全身に回ってから治療をした場合はTPHA法(またはFTA-ABS法)の値がなかなか下がらないことが多いようです。

RPR法は感染から3週間ほどしないと検査では陽性にならないので思い当たることがあって、すぐに検査をして陰性となっても安心はできません。
またTPHA法(またはFTA-ABS法)では、さらに3週間感染から6週間ほど経たないと陽性にはならないので感染したかどうかは、6週間を経ないとしっかりした判定は難しいところがあります。
また、初期硬結、硬性下疳、扁平コンジローマなどの症状がある場合には、これらの表面から検体と採って、染色をするとトレポネーマの存在を確認することができ感染の判定になることもあります。

疑わしいときには、医療機関を受診して検査を行ってみることをお勧めします。
 


梅毒 それからどうなる

イボや発疹が自然に消えたからといっても治ったわけではなく、病気はもう一歩進んでいきます。

梅毒の感染から3年以上経つと腕や大腿に大きく盛り上がった発疹がいくつかできて、やがてこれらが崩れて潰瘍のようになり、重なりあって広がっていきます。
これがゴム腫と言われるものでやはり痛みはありません。ただしこれは消えることもないのです。
そして、感染から10年以上経つと心臓血管系や中枢神経系が侵されて、大動脈炎、大動脈瘤が見られたり、脊髄癆(せきずいろう)や進行性麻痺などの症状も現れてきます。いわゆる脳梅毒、といわれるものです。
しかし、梅毒の原因菌トレポネーマは抗生物質に反応しやすいので近年ではここまで進行したものは、ほとんど見られませんでした。

 

しかし、HIV感染症やエイズの出現によって状況はまた変わってきたようです。
エイズウイルスは、人の免疫機構を低下させ破壊することによって病気を進行させていきます。
このエイズウイルスと梅毒が同時に感染することによって10年以上かかった心臓血管系や中枢神経の症状が、なんと3,4年で見られることがあるのです。
免疫機構が弱くなることによって、一気に病状が進んでしまうことになってしまうのです。
また、免疫が弱っている状態では梅毒の他にも様々な細菌やウイルスにも感染しやすくなっているので治療は困難。一筋縄ではいかない状況になっています。

くれぐれもエイズウイルスの感染には、気をつけてください。
 


梅毒は、出たり消えたり

梅毒のもう一つの特徴に症状が出たり消えたりして病状が進行していくという事があります。

感染後3週間くらいしてできたしこり(初期硬結)や潰瘍(硬性下疳)は痛みもなく、3週間ほどして自然に消えていきます。

でもこれで治ったわけではなく、トレポネーマ(Treponema pallidum)は感染した所から全身に広がり始めて、3ヶ月くらいすると次の症状を現します。

手のひらに、赤褐色(赤黒い感じ)で小豆からエンドウ豆くらいの大きさの発疹ができたり身体には、バラ疹と言われる淡紅色の目立たない細かな発疹ができたりします。

肛門の周囲には、扁平コンジローマといわれるイボのようなものができることがありこれは、しばしば尖圭コンジローマと間違われることもあります。
この扁平コンジローマには、トレポネーマが多数存在して接触すれば感染の可能性はかなり高くなります。

また喉にも梅毒性アンギーナといって、扁桃のところに腫れや潰瘍ができることもあります。

普通このような症状がでれば、痛みや痒みを伴いますが梅毒ではこのようなことがなく、自然に発疹やイボ状のもの、潰瘍などは消えていきます。

症状がなくなったから治ったのではなく発疹やイボなどが出たり消えたりを繰り返して病状を進行させていきます。
 


梅毒は痛くない

梅毒の感染が急速に広まってきた原因のひとつに何か症状がでても、痛みや痒みを伴わないという事があるります。

淋病は、男性では大量の膿が尿道から出て強烈な痛みがあります。ヘルペスでは性器に水疱ができてこれも痛みが伴います。

梅毒に感染すると、3週間ほどして性器に小豆くらいの大きさで硬いしこりのようなものが現れます。
しばらくすると、このしこりが崩れて潰瘍のようになります。
このあとに、そけい部リンパ節(足の付け根のリンパ腺)が腫れてきます。

このしこりも潰瘍もリンパ腺が腫れるのもすべて痛みはなく、3週間ほどで症状は自然に消えていきます。

しかし梅毒はこれで治ってしまったわけでは、もちろんありません。

ここまでは感染の原因菌であるトレポネーマは、感染した所に留まってますがここから全身に広がって、新たな症状が現れてきます。
 


性感染症学会の話題

昨年12月に東京で性感染症学会が開催されました。

今回の話題は、梅毒。
一時患者数はかなり減少していたのですが、この5年間で患者数は約2.5倍も増加しています。

これは男性ばかりではなく、女性の感染者数も増えています。

かつては淋病と並んで性病の代名詞とされていた梅毒ですが最近では、クラミジア、尖圭コンジローマ、ヘルペスに替わられた感がありました。

性器や口腔内にできるしこりや潰瘍の症状は痛みがなく自然と消えてしまうので見逃しやすく、感染が広がる原因ともなりました。

また、これらの症状がなく6ヶ月後にいきなり全身に発疹ができる無症候性のものも多くなっているのも感染が広がった一因と考えられています。

また、妊婦が感染すると胎児にまで感染が及んで胎盤を通して感染してしまう先天性梅毒となってしまいます。

梅毒は妊婦健診で必ずチェックされますが経済的などの理由で母子手帳の交付を受けず、検査もしなければ感染を知らずに出産というケースも近年見られるということでした。

梅毒は血液検査で感染がわかります。
何かのおりに、チェックをしてみるのもよいかと思います。
 


謎の尿道炎

いまから30年ほど前の話になりますが、淋病を治療したあとで再び尿道炎が起きるということがたびたび起こりました。

検査をしても淋菌はもちろんのこと、他の細菌も見あたりません。

もちろんこの間に風俗に行ったり、ということもありません。

いったいどうしたことでしょうか?

じつはこれ、淋菌とともにクラミジアも感染していたのです。

当時はまだクラミジアを検出する方法がなかったので、クラミジアの感染を見逃していたのです。

もちろん現在では、淋菌と共にクラミジアの検査もしますのでこのようなことはなくなりました。

しかし今度は使用する薬剤によって、逆のことが起こるようになってきました。

つまりタリビットやクラビットなどのニューキノロン系と言われる抗菌剤を使って淋菌やクラミジアを治療しようとすると、淋菌はこれらの薬剤に対して抵抗力、つまり耐性を持つものが多くなってきたのでクラ ミジアはなくなっても淋菌は残ってしまう、ということが起こるようになってきました。

ここで残してしまった淋菌は、この他の抗生物質や抗菌剤に対しても耐性を持ちやすくなってしまい、治療が手間取ってしまうことが多くなります。

まずセフェム系の抗生物質で淋菌を確実に取り除いて、つぎにクラミジアをなくしていくという順序で治療をしていかないと、治りにくくなり後遺症を残してしまうこともあります。

最近の尿道炎では、2種類3種類の細菌が同時に感染していることは珍しくありません。

順序立てて感染した菌を取り除いていかないと意外と治療が長引いてしまい、お金も時間も余計にかかってしまうことになります。
 


性病の傾向について

昨年、平成16年の性病の傾向についてお話しします。

患者さんは、20代・30代の人たちが中心となっていて、全体の7割以上を占めています。

男女別で見ますと、まず女性では、20代前半、20から24歳までの人が全体の半数以上を占めて、続いて10代と20代後半の25歳から29歳までの人がそれぞれ2割弱というようになっていて、女性全体のほぼ9割になります。

男性では、もう少し年齢が上がって20代後半から30代にかけてがピークになっていて、男性の6割ほどにあたります。

そして興味深いのが、50歳以上の方が1割ちょっとを占めています。
これは男性の20代前半、20から24歳の人たちと同じくらいの割合になります。

このところバイアグラやレビトラのような男性の悩みを解消する薬がでてきて、若者に負けず元気に活躍されている方々も増えているようです。

しかし、病気は年齢を問わず誰にも平等に感染します。

元気を取り戻されても、くれぐれも感染には注意してください。
それぞれの病気についての割合は、淋菌感染症は12%、クラミジア感染症は8%、非淋菌非クラミジア尿道炎・膣炎が45%というような結果になりました。

非淋菌非クラミジア尿道炎・膣炎とは、いわゆる雑菌性尿道炎、細菌性膣炎と言われるもので、大腸菌、溶連菌、ブドウ球菌などの細菌によって起こるものです。

こういった細菌によるもののほかに、マイコプラズマ、ウレアプラズマといったものによって尿道炎になるケースが増えています。

淋病は、男性の場合では15%程度ですが、女性では7%ほどです。

淋病の最近の傾向として、オーラルセックスによって感染するケースが増えています。

まだ検査を希望される方も少なく、喉からの淋菌の検出は全体の1%にも満たないのですが、淋菌を検出する件数はだんだん増えていて、この傾向を裏付けているように感じます。

クラミジアは、男性の場合だと7%程度となっていますが、女性では20%ほどになっていて、20代前半、20~24歳の女性の来院が多いことも考えると、若い世代にクラミジア感染が広がっていることを感じさせられます。

細菌性膣炎が40%、膣カンジダ症が25%と、この二つで女性全体の3分の2を占めています。

カンジダはもともと膣内にあるもので、それが疲労などの抵抗力の低下、ホルモンバランスの変化、抗生物質の服用などによって、膣内細菌のバランスが変化して増殖することがよくあります。

細菌性膣炎も、抵抗力の低下やホルモンの変化などによってバランスが崩れて大腸菌やブドウ球菌などが増えてきて起こります。

ですから、このふたつの病気は必ずしもセックスによる感染とはいえないところがあります。

ヘルペスは、全体の1~2%ほどで、ここ数年は同じような割合を占めています。

ヘルペスは年に1~2回ほど流行する時期があるようで、患者さんがグッと増えるときがあります。

昨年の場合、11月がそれに当たっていました。

尖圭コンジローマは全体の3%ほどを占めるくらいですが、患者さんの数がジワジワと増えています。

痛みもなくイボができてくるだけですが、再発も多く治療は厄介なものになりますから、ご注意ください。

そして昨年後半からグッとその数が増えてきたのが、毛ジラミです。

昨年の初め頃は月に1・2名だったのが、8月を過ぎるあたりから10名ほどになる月もあり、今年に入ってもこの傾向は続いています。

肌の接触によって直接感染するばかりでなく、タオルや毛布などの寝具からも感染するので、家族にも感染することがあり要注意です。

かつては性病の代名詞といわれていた梅毒ですが、年々減少する傾向にあり、昨年は1%を切っています。

性器からじわじわと全身に広がっていく病気で、治療後も血液中の抗体はなかなか消えず感染した証拠が残ってしまうことがあるので気をつけてください。

さて、今年はどのような傾向になるのでしょうか?
 


治療はしっかり最後まで

淋病などの尿道炎で、痛みや膿がでて性病科に駆け込んでも、抗生物質や抗菌剤によって、4・5日で症状もきれいに治まってしまいます。そうなると、もう安心して病院に通わなくなってしまう患者さんが増えてきています。

しかし症状は取れてしまっても、尿道に入り込んだ細菌までは取りきれてないのです。

性感染症学会でも、「菌が取りきれるまでは2週間の治療が必要で、最後に必ず菌がなくなっていることを確認する。」というガイドラインに基づいて、治療方針が決められています。

2週間というのは最低のラインであって、場合によってはもう少し時間がかかることもあります。

では、途中で治療を中断してしまったら、どうなるのでしょう?

尿道の中に残っていた菌が再び増えてきて、1ヶ月・2ヶ月と経つうちに、また膿や痛み、違和感などの症状が出てきます。

ここで違うのは、しぶとく生き残った菌は薬剤耐性という、前に使った薬に対して抵抗性を持つようになっています。また、使った薬に対してだけでなく、それと同系統の薬に対しても抵抗力を持ってしまうことも、しばしばです。

こうなると、薬を変えて、量も種類も増えて、治療期間も前回より長くかかってしまいます。
費用も時間もたくさんかかってしてしまうようになります。

こうならないためにも、きちんと検査と治療を受けてください。


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